恵比寿の過ごし方

ミシュラン一つ星獲得の店主が手がけるおでん屋? 使い勝手のいい日本酒バー「青ちょうちん」

恵比寿ガーデンプレイスの一角、線路沿いのエリアに個性的な5店が軒を連ねるブリックエンドは、どこか隠れ家的な雰囲気が漂う場所。エントランス近くに位置する日本酒バー「青ちょうちん」は、この雰囲気に魅せられた料理人、秋山英登さんの”もうひとつの顔″ともいうべき店だ。

実は秋山さんは、ミシュラン一つ星を獲得している日本料理店「あき山」の店主でもある。なぜこんなお店を? そして秋山さんの背後にある大きな物体は一体…?

“気がいい”この地で、好きを集めた場所を作りたかった

「2018年に、恵比寿からほど近い白金で『あき山』を始めました。そこは8席しかないカウンター割烹なので、もう少し間口の広いお店もできたらと考えていたんです。ブリックエンドはもともと好きで、『MUSIC BAR berkana』の森山(裕之)さんに、『日本酒バーとしてこういったお店ができたら』といった話もしていました。そうしたらコロナ禍の時に空きが出たと知って」と、オープンのいきさつを語る秋山さん。

秋山英登さん。鮨店と割烹で修行を積み、独立。東京・白金に店を構える「あき山」は『ミシュランガイド 東京 2020』より連続して一つ星を獲得。

「青ちょうちん」は2022年7月にオープン。ガラス張りの正面から店内を見渡すと、こぢんまりとしつつも、大きな一枚板を配したカウンター、壁に飾られた現代アートなど、上質で洗練された空間が広がる。

「おいしい料理を食べる、おいしいお酒を飲む、いい音楽を聴く、心地いい空間に身を置く、といったことは僕のなかでは並列なんです。そんな〈好き〉の点と点がつながった、全部が満足できる場所って意外となくて。僕が行きたかった店といえるかもしれません」

レコードの厚みのある音が店内に響く。味のあるレコードプレイヤーは英ガラード社の品。

自身の店を構える前からブリックエンドが好きだったという秋山さん。
「なんだか、“気がいい”って感じるんです。来る人にとって気持ちよさそうだなって。この場所だからこそやりたかった、というのは大きな理由ですね」

店内はカウンター9席と2人用テーブルが2卓。壁のアートは秋山さんの私物を定期的に飾っており、現在は気鋭のアーティスト、長谷川彰宏の作品が。

入魂の出汁と、出汁に合う日本酒を味わう

料理は限られた調理スペースということもあり、「あき山」で仕込んだ料理を温めて提供するスタイル。砂糖を使わず、昆布と鰹節で丁寧に出汁をとったおでんを中心に、おひたしやきんぴらといった惣菜や珍味、締めの麺やご飯も揃う。

「出汁が好きで、出汁を使った煮炊き料理を出したくて、気軽に楽しめるのがおでんかなと。それ以外にもちょこちょこ用意していて、日によっては『あき山』で仕入れた鮮魚の刺身を出すこともあります」と秋山さん。

左から時計回りに、エビの真丈、ダイコン、生麩。単品で¥400〜のほか、肉系以外の5〜6種の盛り合わせ2,500円もあり。

そして日本酒バーというだけあって、日本酒の品揃えはかなりのもの。おでんの出汁に合うものを中心に、味が偏らないよう全国の酒蔵から40〜50種を集めている。さらにはグラスワインや焼酎、ビールやウイスキーも揃い、ビールの後に日本酒、日本酒の後に別のお酒といった楽しみ方ができるのもうれしい。

日本酒は100mlの湯呑みで提供される。左から、「播州一献」700円は、キレがよく食事に合う辛口。「鳳凰美田」800円は華やかな味わい。
壁にはお酒がズラリ。日本酒やワインは常時入れ替わるためメニューはなく、ラベルを確認したり、スタッフにおすすめを聞いたりして選ぶ。

店のアイコンは大迫力のヴィンテージスピーカー

「青ちょうちん」のアイコン的存在といえるのが、店の中央にそびえる巨大なスピーカーだ。米ウエスタンエレクトリック社が1930年前後に製造していた、なんと映画館で使われていたもの。アンプも同社で統一し、純正のシステムを取り入れている。

「店づくりを考えたときにいい音は外せなかった。これは知人の家で聴く機会があって、ぜひ導入したいと決めました。明らかにオーバースペックなんですが(笑)、このでっかさもなんかいいなって」

中央のスピーカーで中高音、左右のウーハーで低音が流れる。右側にはレコードプレーヤーとアンプを設置。ヴィンテージの質感がなんともシック。

いったいどんな音が? と気になるが、意外なほど柔らかな響き。音楽主体のバーではないので、お客さんが会話を楽しんでいる様子なら音量を抑えるといった配慮も行う。流れるジャンルは秋山さんが好きなジャズや90年代以降のロックが多いものの「『このシステムで聴きたい』と、お客さんがレコードを持ち込むこともあります」と笑う。

スピーカーと同じく、アンプも米ウエスタンエレクトリック社のヴィンテージ。壁の棚にはレコードやCDが所狭しと並ぶ。

ここは品のいい高架下。人で雰囲気が変わるのが魅力

訪れるお客さんの年代はさまざま。カップルや近隣で暮らす人や働く人の2軒目利用が多い一方、早い時間だと、料理をいくつか頼んで定食屋さんのように使う人もいるとか。


「静かな日もあれば、にぎやかな日もあるし、人によって雰囲気が変わるのもいいんですよね。線路が近くて、訪れる人が思い思いに過ごしているから、ここって品のいい高架下だなって個人的には思っています」と秋山さん。

入口の青い照明とちょうちん風のオブジェには、アーティストの内田洋一朗によるタイポグラフィーがさりげなく施されている。

早い時間は、修行した店の後輩にあたる吉丸徹弥さんが店を切り盛りし、秋山さんは「あき山」の営業終了後、毎日のようにこちらを訪れ、好きなレコードをかけて楽しんでいるとか。

丁寧につくられた料理、国内外から集めたお酒、圧巻の音響システムで鳴らされる音。一流の料理人が本気で集めた〝いいもの〟を、肩肘張らずに普段使いできる。そういった上質なカジュアルに出合えるのは、ここ、恵比寿ならではの醍醐味かもしれない。

text: Taemi Suemoto
photo: Ryo Yonekura

SHOP INFO

青ちょうちん [ 日本酒バー ]

BRICK END 1F

日本酒を中心に豊富に揃ったお酒と、おでんをはじめとする和惣菜を、落ち着いた空間で楽しめるバー。希少な音響システムによるBGMも魅力。土日祝の12〜16時は、カフェ営業でカレーとコーヒーを提供している。

定休日:不定休
営業時間:平日18:00〜25:00(L.O.24:30)、
     土日祝12:00〜16:00(カフェ営業)、18:00〜25:00(L.O.24:30)
電話番号:070-8524-8827

店舗詳細: https://bit.ly/43ftP71

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