恵比寿の過ごし方

初夏の夕暮れ、大切な人と「心がひらく」ひとときを/PICNIC CINEMA

本格的な夏の到来を前に、毎年人気の野外シネマイベントがやってくる。今年は「PICNIC CINEMA」と銘打ち、6月6日(金)〜7月6日(日)の、毎週金・土・日曜夜の開催だ。プロデュースするのは全国を旅する移動映画館「キノ・イグルー」。主宰の有坂塁さんに、今年の見どころ、そして有坂さんが「ほかの屋外映画上映にはない」と力説する、このイベントの魅力を聞いた。

今だからこそ届けたい、心が揺れ動く15作品

今年の上映作品を選ぶとき、有坂さんにあったのは「心をひらく」というテーマだ。昨今、コンプライアンス問題やSNSの炎上などで、たとえ自分が関わっていなくても、知らず知らずのうちに萎縮や緊張を強いられる、いわば心を閉じてしまう状況が多いことが気になっている、という。

「人間が人間らしく、自分が自分らしくあるためには、心が開いている状態が必要。そうでないと、周囲の人や物事と向き合えないと思うんです。とはいえ、すでにある関係性のなかで、急に心を開くのは簡単ではないですよね。それなら、映画を通して誰かの人生を追体験することが、自然と心がひらくきっかけとなったら。そんな思いで作品を選びました」

初日を飾るのは『花束みたいな恋をした』。2020年の東京を舞台に、終電を逃して偶然出会ったふたりが紡ぐラブストーリーは、有坂さんが2021年の日本映画ベスト1に選んだ作品でもある。

「脚本は坂本裕二さん。多くの名作テレビドラマを生み出している方ですが、映画も素晴らしく、なかでもこちらは傑作だと思います。流れる空気感を屋外でぜひ体感してほしい。すでに映画館や配信などで見たことがあっても、また感じ方が違うのではないでしょうか。パートナーや、思いを寄せている人と一緒に見るのも素敵だと思います」

『花束みたいな恋をした』 ©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

もう1本おすすめとして挙げたのは、社会の片隅でたくましく生きる子どもたちの姿を描いた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』だ。

「今年のアカデミー賞で5冠を獲得した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督が手がけています。個人的には彼のベストワン。アカデミー賞がきっかけで彼を知ったという人にも、ぜひ見ていただきたい作品です」

©2017 Florida Project 2016, LLC.

偶然から生まれる4D体験は、野外シネマの醍醐味

有坂さんが日頃感じているのは「屋外での映画鑑賞は映画館とはまったく違う」ということ。そして恵比寿ガーデンプレイスという場所には、他にはない魅力がある、と付け加える。

「風を感じながら映画が見られるだけで、まず特別。この時季は夜も半袖で過ごせるので、開放感もひときわです。そして面白いことに、自分が今いる空間と映画の世界がリンクする瞬間があって。過去の上映でも、映画で電車が勢いよく到着する場面で急に突風が吹いたり、上映前は曇り空だったのが、スクリーンで満点の星空が出て、まさかと思って見上げたら実際も星空だったり。今回も、そんな4D体験ができるかもしれません」

昨年の様子。センター広場は屋外の開放感がありつつ、屋根があるため少々の雨ならしのげるのもありがたい。

今年は昨年より大きい、約320インチ(縦4.2×横6.9m)のスクリーンが登場。ちなみにセンター広場だけでなく、両側に建つ施設の歩道からスクリーンを眺める人もいて、そんな自由な雰囲気だからこそ、会場には不思議な一体感が漂う。

「初めてこのイベントを手がけた時、大切にしたかったのが『自分のスタイルで、自由に映画を楽しめること』でした。それは今も続いていて、自由さが、むしろ参加者同士の心の距離を近づけている気がします。音楽がテーマの映画では、体を揺らしたり、なかには立ち上がって踊る人もいたり。かと思えば、とある映画のクライマックスでは、シーンと音ひとつしなかったり。来場される方一人ひとりの心がけや、会場の構造も相まって、全体がとてもいい空気に包まれていると感じます」

極上メニューと一緒に、贅沢すぎる夜のピクニック

そして「PIINIC CINEMA」のもうひとつの楽しみが「グルメ」だ。今年は初の試みとして、館内のレストラン・カフェ・ショップから、イベント期間限定のテイクアウトメニューが登場する。また「恵比寿の料理人が考えるヱビスビールに合う逸品グランプリ(以下、逸品グランプリ)」より、過去に受賞した10店舗が、週替わりでキッチンカーを出店するのも見逃せない。

左:名物メニューを食べやすくアレンジ。ディップソースは上映作品に合わせて毎週変更予定。「ポップベニエ&ディップ」500円、右:「ヴァージンモヒート」700円/販売店:ブルーノート・プレイス
左:瀬戸内レモンのピールが入った初夏にぴったりのさわやかな味わい。「瀬戸内レモンのヨーグルトシェイク」680円/販売店:よつ葉ミルクプレイス
「逸品グランプリ」2022年大会 準グランプリのビストロ「tTure」は7月4日(金)〜6日(日)に出店。 ※写真はイメージです

さらに「YEBISU BEREWERY TOKYO」では、6月11日(水)より、映画をテーマにしたビールが数量限定で登場する。上映前に立ち寄って、おいしいビールで気分を盛り上げるのもアリだ。

「1911U: A Hop Odyssey」1300円。「Beer is Future. (ビールは未来)」をコンセプトに、ホップ研究により生み出された、まだ名前のついていないホップ「1911U」を使用している。

「恵比寿ガーデンプレイスにはレストランやカフェ、スーパーマーケットまであるから、食べ物も飲み物も選び放題。家族や友達、大切な人を誘って、ピクニックシートだけ持ってくれば大丈夫です。夕方頃に来て、シートを敷いて、食事の準備をしながらおしゃべりして、そうしているうちにだんだんと日が暮れて……。そんな上映前の時間もいいんですよ、しかも都会の真ん中で。なんて贅沢なイベントだろうと思います」

あたりが薄闇に包まれた頃に上映がスタート。ディナーと一緒に、無心で映画を鑑賞して。終了後は有坂さんより、作品の解説と「今日の作品が気に入った人におすすめの2本」が紹介されるので、次なる映画体験へつなげられるのもうれしい。

日常に映画があることの豊かさを「心がひらく」体験とともに味わえる「PICNIC CINEMA」。一足早く、とっておきの夏の思い出を作りに訪れてみては。

text: Taemi Suemoto

有坂さんのインスタグラム内リール動画では、昨年の上映時の様子を公開中。→有坂 塁さんインスタグラム(外部サイト)

PICNIC CINEMA

開催期間:2025年6月6日(金)〜7月6日(日)の金・土・日曜
上映時間:各日19:30〜
場所:恵比寿ガーデンプレイスセンター広場、時計広場
料金:入場無料

イベント詳細: https://gardenplace.jp/event/detail/598

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