モノ・コト

新しい時代へ、料理で思いを紡ぐ/レストラン「ジョエル・ロブション」関谷健一朗シェフ

恵比寿ガーデンプレイスのシンボリックな建造物として知られるのが、敷地内中央にそびえ立つ「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」。フランスの貴族の館を彷彿とさせる外観は、訪れる人々の人気の撮影スポットにもなっている。

世界の美食家より今なお多くの賛辞を贈られる世紀のシェフ、ジョエル・ロブション氏。すべての調和を大切にし、こだわりを尽くしてジョエル・ロブション氏が生んだモダンフレンチの集大成がここにある。

調理場で腕をふるうチームを束ねるのが、ロブション氏の愛弟子、関谷健一朗エグゼクティブシェフ(総料理長)。関谷シェフに、料理への想いと、これからについて聞いた。

フランス料理の原点に出会った20代

シャトーの中にある厨房。壁にはジョエル・ロブション氏や、美しい料理の写真が飾られている。

写真の中で、厨房のシェフたちを見守るように微笑むジョエル・ロブション氏。39歳でミシュランガイド最高峰の三つ星を史上最短記録で獲得し、世界一、星を持つシェフであり、フレンチ界の神様と称されている。

日本における旗艦店「ジョエル・ロブション」は1994年、ここ恵比寿に誕生した。以来、フランス人のみに与えられてきた総料理長の座だが、2021年11月に日本人として初めて就任したのが関谷シェフ。

「中高生の頃よく見ていた料理番組に刺激を受け、いつも母が作ってくれる料理やお菓子がおいしかったこともあり、自然と料理への関心が深まりました」と関谷シェフは語る。

好きなことをとことん追求したいと思い、調理師専門学校に進み、西洋料理の道へ。卒業後は千葉県内のホテルに入社し、仕事に慣れてきた頃に休暇でフランスを訪れ、パリとリヨンの名だたるレストランの数々を巡ったそう。当時は日本版のミシュランガイドが発売される以前。

「三つ星の最高峰のレストランとは、どんな味なんだろう?と興味があって、20歳の時に初めてフランスを訪れました。食材が見たこともないものだったり、同じものなのに全然違う形だったり。また、料理への考え方の違いにも衝撃を受けました」

帰国後、次はフランスに料理人として働きに行こうと決めてから、語学学校でフランス語を猛特訓。渡仏後は自ら働きたい店に手紙を送り、働くことが叶ってからは、日本の職場とはまるで様子が違う厨房での仕事がスタートした。

慣れない環境でのハードな日々は、大変な苦労があったことがうかがえるが「フランスに行く準備も、本場のレストランで働くことも、どれも興味のあることだから、まったく苦労に感じたことはありません」と語る関谷シェフ。

有名レストランを渡り歩いた後、フランスでの暮らしが4年目の時にパリの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に迎え入れられた。高いレベルとスピード感を求められながら研鑽を積み、1年でスーシェフ(副料理長)に抜擢。渡仏から約9年後の2010年に帰国、六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」の料理長に就任する。

チャレンジと進化を続ける

恵比寿ガーデンプレイスを象徴する「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」。(写真/サッポロ不動産開発)

2018年、関谷シェフは第52回〈ル・テタンジェ〉国際料理賞コンクール・インターナショナルに挑戦。料理の腕前で勝負する若手シェフの登竜門的な権威ある世界大会で、見事、日本人として34年ぶりに優勝に輝いた。

また、2023年には、100年もの歴史あるタイトル「M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)」を、料理部門では日本人として初めて受章。これまでの功績が認められて授与されるのではなく、約1年かけて行われる試験が3〜4年に1度のみ行われ、厳正な審査を経て、各部門の最高の技術力と知識をもつと認められた者のみがM.O.F.を与えられる。

試験の準備期間についても「コンクールにチャレンジした時は、営業終了後に実技の練習をしたりしました。でも、その期間だけ集中してやることは、大変でもなんでもないです。永遠に続くわけではないですから。自分がやりたいと思ったことなので、苦労ではないんですよね」

シャトーの中の螺旋階段を登った先に現れる、上品で優雅な非日常空間。クリスマスに恵比寿ガーデンプレイスを照らすライトアップでもおなじみ、バカラ社のシャンデリアが、シャンパン色の空間で輝く。

目に映るものすべてがインスピレーションを与えてくれる

素材の持ち味を最大限に引き出し、美しい皿を仕上げるクリエイションに余念がない、忙しい日々を送る関谷シェフだが、インプットの時間はどのように捻出しているのだろう?

「オンとオフの時間は切り分けたいと思ってはいますが、料理のことを忘れる瞬間というのは、これからもずっとないでしょうね。歩いていても、目に映るものすべてが、料理につながるヒントをくれます。

ル・テタンジェのコンクールの時に、赤や黄色の紅葉に見立てたジャガイモのチップスを付け合わせの1パーツとして作りましたが、試作中にアドバイスを求めたフランス人たちにはピンと来ていなかった。なぜだろう?と考えていた時に、街を歩いていてふと気づいたのが、日本と違って秋の樹木に赤い葉がないこと。

そこで、黄色と茶色のグラデーションに変えてみたところ、フランス人のイメージとマッチしました。こんなふうに、落ち葉ひとつからでも、料理へのインスピレーションが沸いてきます」

30年の歴史を受け継ぎ、次の時代を切り拓く

繊細な技術と研ぎ澄まされた感性を一皿に込める。

「初めて、この恵比寿の店に足を運んだ日は、どれくらいのお客さまがここを訪れ、何人のシェフたちが料理を作ってきたのだろうかと、これまでの時間に思いを巡らせました。今も、その歴史の重みを感じます」

2024年に開業30周年を迎えた「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」は、『ミシュランガイド東京』創刊以来18年間連続で、三つ星の最高評価を獲得。


歴史を受け継ぎ、次代のシェフたちに伝えていきたいことは?

「続けることや諦めないこと。諦めなければ、思い描いたことは叶います。

実は、コンクールで優勝しても、M.O.F.を受章しても、満足感は得られなかったんです。あくまでも、これは通過点だと。今は一緒に働く仲間たちにいろいろと指示を出す立場でもありますが、いつでも自分自身を磨いておかないと、説得力がない。

料理人としては、25年間やってきて、今ようやく折り返し地点に来たという感覚です。常に現状には満足せず、新しいことに挑戦していきたいと思っています」

甲殻類のジュレを薄く敷き詰め、カリフラワーのクリームと蟹のサラダにキャビアを組み合わせた「 キャビア・アンペリアル ロブションスタイル」。

この日、シェフが披露してくれたのは、ロブションを象徴する料理の一つ「 キャビア・アンペリアル ロブションスタイル」。料理の構成食材は基本的には3つで、カリフラワー、甲殻類、キャビアを使った一品です。今お出ししているのは、ロブション氏が関わってきて、第3世代まで来た形態です。今後も、フランス人が『この手があったか!』と驚きをもって迎えてくれるような、新しさを生み出したいです。

今はまだ、その形を探っているところ。恵比寿の街を歩いて、何かヒントをみつけられるといいですね」

シェフが好きな恵比寿ガーデンプレイスの風景は、にぎわいが落ち着いて、静寂に包まれた夜のシャトー。(写真/サッポロ不動産開発)

text: singt
photo: Ryo Yonekura

SHOP INFO

ガストロノミー “ジョエル・ロブション” [ ガストロノミー ]

恵比寿ガーデンプレイス内

ジョエル・ロブションが世界中で展開する様々なレストランの中でも、最高峰のブランドとして世界を魅了し続ける。最高の素材を惜しみなく使い、素材が持つクオリティを最大限に引き出した、ロブション モダンフレンチの集大成を、洗練されたサービスと共に堪能できる特別なレストラン。

定休日:不定休
営業時間:
Dinner17:30〜20:00(L.O.)22:00 close

Lunch(土日祝日のみ)
11:30~12:30(L.O.13:00、15:00close)

電話番号:03-5424-1338 又は 03-5424-1347

店舗詳細: https://bit.ly/3Ckg1wV

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