肉を引き立てる、鮮やかなパプリカのソース／1dL「鹿児島県産黒豚ロースのロースト」

個性豊かな飲食店が軒を連ねる恵比寿ガーデンプレイスのBRICK END（ブリックエンド）エリアで、15時から深夜まで良質なワインと日本酒を気軽に楽しめるワインバーがある。その店の名前は1dL（イチデシリットル）。フレンチ出身のシェフとソムリエのコンビが切り盛りする店内は、コンパクトなキッチンをカウンターが取り囲み、お酒もお料理も少しずつ、いろいろ楽しめるようにと工夫された小皿料理を中心に提供される。

今回はそんな1dLのシェフ・佐藤さんに夏を感じる旬のメニューを紹介してもらった。

まずは、厚切りの黒豚ロースのローストにグリルした万願寺唐辛子がアクセントとして引き立つ一皿を。季節の食材を中心に扱い、通年同じメニューがほとんどないという同店は、メインディッシュとして提供する肉料理も時季に合わせて選び方が変わるという。

「食べ疲れしやすい夏の時期には、赤身が多くさっぱりとした味わいの鹿児島県産黒豚のロースを選んでいます。反対に、冬場は脂がしっかりとのった肉を使うなど、季節に合わせて肉の種類や部位を吟味し、その日のメニューを考えています」と教えてくれた佐藤シェフ。ほどよく水分を残してふっくら焼き上げた豚肉は、パサつくことなくしっとりとした食感。気温が高く、ジメジメとした気候でもさっぱりおいしくいただけるのは、食べ手を想うシェフの細かな気配りの証だ。

さらに個性が光るのは、パプリカとチョリソーという新鮮な組み合わせによるソース。オリーブオイルでパプリカと塩、チョリソーを炒め、よく煮詰めてペースト状にすることで、素材本来の旨味とコクが一層引き立つ仕上がりに。影の主役ともいえるほどの存在感を放つ独創的なソースは、生ハムの切れ端を旨味として調理に取り入れるフランスの食文化から着想を得たという。今の時季ならではのパプリカを扱ったソースは、仕入れの状況によって内容も季節とともに移ろって行く。

お料理に合わせたお酒のペアリングを相談ができるのも本格ワインバーならでは。ソムリエ・川田さんのおすすめは、ムールヴェードルという品種の黒ブドウを使い、黒胡椒のスパイシーさや花のような華やかさといった複雑さがありながらも、徐々に柔らかい丸みを感じる味わいで黒豚との相性もぴったりなフランス・プロヴァンス産の赤ワイン。ソースの持つ旨味とセージのような青っぽさを感じる香りのワインと一緒に楽しみたい。

「毎日決まった仕事や時間のルーティンを過ごすなかで、日本ならではの四季を感じさせてくれる食の存在は大きいと思っています。もちろん気候の変化もありますが、衣食住のひとつである食から四季を感じることはとっても楽しいもの。その魅力を料理を通して伝えられたらと思っています」と語る佐藤さん。

メニューを考える際には、季節の食材を主役にするだけではなく、その時期にみんなが食べたくなるものは何か、夏なら南部、冬なら北部地方のフランスやイタリアの郷土料理などもヒントにして組み立てていくという。だからか、どの料理も食材同士の相性がよく、口に運ぶほどに身体がよろこび、内側から元気になるのを感じる。

まだ辺りも明るい時間帯から少しずつ賑わいを増してゆく店内。犬の散歩ついでにテラスで一杯、カジュアルな打ち合わせとしてお酒を交えたコミュニケーションを取る会社員の姿まで。そんな自由で飾らない多様な楽しみ方は、『肩ひじ張らず、心地よく、—今日も明日もまた来たい—。そんな「いつもの店」でありたい』という1dLのコンセプトを見事に体現していた。



text: Mikiko Ichitani
photo: Miho Noro